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2018.04.06

【富士フイルム デザインセンター様×コクヨ様×ワールドデコズ】

天然素材を使う理由と一枚板の効果

 

表参道駅から徒歩10分ほど、西麻布に建つ富士フイルム株式会社様の「デザインセンター CLAYスタジオ」。「CLAY」には、デザイナーがモノを形作る時に使う”粘土”の意味と、デザイナーにとって大切な”資質、天性”の意味が込められている。

 

エントランス右、大部屋の中央に巨大なテーブルが鎮座する。ワールドデコズが納品させていただいたネズコの一枚板を利用して作られたテーブルだ。

 

この度、デザインセンターのプロジェクト担当である、富士フイルムデザインセンター・チーフデザイナーの中村佐雅仁様と、同プロジェクトにパートナーとして携わっていたコクヨ株式会社ファニチャー事業本部・デザイナーの轟木徳八様のお二人に、製作の経緯とネズコとの出会いを聞いた。

左:コクヨ株式会社ファニチャー事業本部・デザイナー 轟木徳八様

右:富士フイルムデザインセンター・チーフデザイナー 中村佐雅仁様

 

◆ その空間に求められた役割

ーまず初めに、プロジェクトの概要を教えてください。

中村 「企業デザイナーの働き方や役割が変化してきた」「デザイナー発で新しい事を社内外に向けて仕掛けていきたい」という思いがあり、「そのためにはどんな制作環境・空間が必要か?」という議論からプロジェクトが発足しました。

 

外部のデザイナーや、企画・研究・開発者が集まって新しいアイデアをコラボレーションしながら発想できる、ハブとなる空間を作りたかったんですね。なのでこの建物も「オフィス」ではなく「スタジオ」を作るんだというコンセプトでデザインを進めました。

 

富士フイルム側が実現したい「デザインスタジオ」に求められる要件をまとめ、それに対してコクヨさんがイメージしやすいよう3Dの図面化、素材探索をしてくれるような流れで進めていきました。

 

 

ー中村様達の希望やイメージに対し轟木様が提案する、という役割分担だったんですか?

中村 それは少しニュアンスが異なります。私たちもデザイナーですので「一方的に提案してもらう」のではなく、インテリアデザインや素材についての要望など具体的なところまで両社で議論しました。

 

轟木 なので本当に1つのチームとして目的を共有しコラボレーションして作っていった、という言い方が正しいように思います。お互い、プロフェッショナルのデザイナーですので。毎週火曜日の夜に、3~4時間くらい打ち合わせして、細部まで妥協せずつめていきました。

 

中村 我々のイメージを伝えると、毎回コクヨさんがビジュアル化してきてくれて…それを元に「もうちょっとこうした方がいい」とかディスカッションをするんですね。言葉では「いい!」と思ったアイデアでも実際にビジュアル化するとコンセプトからズレていたり。轟木さんが毎回素早く議論した内容をビジュアル化してくれたおかげで短期間での移転が実現できました。

 

轟木 あとは、図面で表現できることももちろんあるんですけど、実際に素材を見てみないとわからないものは多い。なのでテーブルにずらりと材料を並べて、実際に触ってみたりとか。やっぱり、手触りなどは非常に重要なところなので。あとは色味とか。現物をとにかくいっぱい集めて、そこから徐々に絞り込んでいく。ある程度絞り込んだところで「やっぱり何か違う」とリセットしたりとか。

 

素材もそうですが、既製品の家具でも同じようなことをやりましたね。イスを10脚くらい並べて、実際に一週間くらい使ってもらって座り心地を見てもらうとか。

こうしたトライアンドエラーをたくさん繰り返してカタチにしていきました。

 

結局、デザインって「使いにくいものはダメ」なんですけど、一方で今回の一枚板のように「形が変わってしまうもの」が選ばれる場合もある。これはもうバランスというか…使いにくさを超えるほどの「いいもの」であればアリだったりもする。こればっかりはシンプルに「必死で頑張って考える」しかないですね。

 

 

中村 CLAYスタジオではコミュニケーションが活性化する空間を目指していて、そこで重要になってくるのがインテリアの「質感」です。ここには本当にこだわりました。「ただ単にカッコイイ・カワイイ」とはまた別軸の話ですね。そのためにはどうしても、ぬくもりのある天然素材を使いたいと思っていました。当初は社内で反対意見も多かったのですが(笑

 

 

 

 

◆ 天然素材を使う理由とリスク

ー反対意見というと?

轟木 天然素材は「変わってしまう」というリスクがあります。購入当初は良くても使っている中で反りが生まれてしまったり、最悪の場合割れてしまうかもしれない。割れるまではいかなくとも、ささくれが立ってしまうこともあります。決して安いお買い物ではないので、そういう状況になってしまうのはいかがなものかと。それに、割れや欠けをきっかけとして、怪我をする方も出てくるかもしれませんよね? 

 

 

ーどのようにすり合わせを行ったんですか?

中村 それでも、私達は天然素材を使いたいと思っていたので必死に説得しましたよ。

天然の木ならではの味のある存在感や、空間のセンターに設置される「=主役」となるため、インテリアデザイン的にも妥協できない。また、ネズコがいかに貴重な木なのかという木曽五木(江戸時代に尾張藩により伐採が禁止された貴重な木)のストーリーも交えプレゼンテーションをしたり。そうやって天然素材の良さを語るにつれ、少しずつ共感してくれる方も増えていきました。

 

 

 

ー反対意見がある中、それでも使いたいと思った理由は?

中村 先ほども話したように天然素材ならではの「質感」です。これは人工的なものにはなかなか出せない味なんです。

この大きなテーブルをみんなで囲んでディスカッションをするわけですよ。仕事のディスカッションってどうしても硬くなってしまうところがありますよね? もちろん、そういう雰囲気も悪くないのですが、一方で創造性を減退させてしまう原因にもなっているのかなと感じていました。

 

天然素材のテーブルはその硬い雰囲気を程よく和らげてくれる。座った瞬間からなんだか少し緩い空気を作り出してくれるんですよね。リラックスした状態でアイデアを出し合うことができる環境が、デザイナーや企画・研究・技術者のチームにとって非常に重要だと考えています。

 

 

◆ 山の上の加工場で一枚の板に出会う

 

ーワールドデコズのことはどこでお知りになられたんですか?

 

中村 大きな一枚板を探していた時に「吉野杉」を轟木さんが見つけてきてくれました。どうやら非常に綺麗で貴重な木材を、奈良の業者さんが持っているらしいと。それがワールドデコズさんのことを初めて知ったタイミングでした。

 

早速、現地に轟木さんと見に行きました。木材の微妙な風合いや質感は直接見てみないとやはりわからないので。

 

轟木 そこで実際に見せてもらって…これはもう直感なんですけど吉野杉は「なんかイメージと違う」んですよ。なんだか違和感を覚えてしまいまして。

 

中村 吉野杉もいい木なんですよ!大きさもボリュームも申し分ない。でも…真っ白で綺麗なカッチリした雰囲気が逆に新品の堅い雰囲気のテーブルに仕上がりそうだなぁと。それって、2人で話していた「柔らかく場が和むような木」という雰囲気からズレているような感じがして…。

 

 

ー(吉野杉)それは残念でしたね…

中村 それで私達の表情を汲み取ったのか、ワールドデコズさんの方が「どんな木が欲しいんだ?」と現地で改めてヒアリングしてくれて…「それならもっといい板があるぞ!」と、そこからさらに別の、すごく山奥の加工場に連れて行ってくれたんです。雨が降っていて足元ぐっちょぐちょで大変でしたが(笑 そこで出てきたが巨大なネズコの一枚板でした。

 

轟木 最初に見た瞬間から「あ、これだ」って感じましたね。

 

中村 二人で最初にネズコを見たときは、二人とも「かっけえなぁ…」の言葉しか出てこなかったですね。「迫力もあり雰囲気もばっちり」で正直驚きました。当初考えていた吉野杉だと4~5本並べてようやく2mくらいになるのですが、それが一枚板であるという存在感と樹齢1000年がかもし出すオーラ・風合いですよね。

加えて「様々な大量の在庫」の中から我々のイメージに合う一枚をすっとピンポイントで出してくれるあたり。匠が選んでくれている安心感もありました。本当に「いい木材を見せたい」っていう思いがすごく伝わってきました。

 

 

◆ 未だ世界にない、唯一の空間

ー実際に使ってみて、周りの反応はどうですか?

中村 やはり、最初は私自身も不安でしたが、今は普通に使っています。普段は別の建物で仕事をしている研究者も「ここがなんか落ち着く」なんて言いながらネズコで仕事をしてくれたり。

 

来客者も「この木はなに?」なんて言いながら見るだけでなく触りたがります。普通、他社さんのオフィスに行って、テーブル触りたくなることなんて中々ありませんよね? 急に匂いを嗅ぎ始める人もいますし。(笑 そこから樹齢何年?何枚で構成してるの?などのコミュニケーションが生まれたり。

 

また、印象的だった出来事として、この部屋をメインの作業場としているデザイナーが「朝来てドアを開けると、ネズコの香りがする」って言うんですよ。見た目にもインパクトの大きいテーブルですが、先ほどのように触って楽しむ人もいれば、香りを感じる人もいる。このように、「五感に訴えることができる」というのは、天然素材の木ならではの良さですよね。

 

 

◆ 天然素材の利用を検討している方へ

轟木 そもそも前提として「本物の木を使うこと = 必ずしもいいこと」とは思っていません。ただ、非常に面白かったです。このネズコは樹齢1,000年~っていう説明をされて、本当かよ? って思いながら聞いてたんですけど。正直、そんな木を使うことは、最初「恐れ多い」と感じていました。立っていたら御神木ですよ。なんというか…すごく大事なものになりうるな、ということは感じていました。世界で見ても絶対、同じものはないので。どうやっても愛着はわきますよね。

 

中村 使っていて感じることですが…家具屋さんで購入したテーブルと明らかに違うのは「一緒に時を刻んでいけるもの」っていう感覚ですね。爪でちょっと引っ掻いたら傷もつきますし、色も変わっちゃいますし、湿気でカタチが変わりますし。ただそういうのって、一緒にCLAYスタジオで生活していると全部が可愛いというか。ペットじゃないですけど、生き物というイメージです。10年後に見ると全く別のものになっているでしょうし、深みも出ているでしょうし。本物の木を使うということは工業製品にはない命というか、時というか、生っぽさがありますね。そして、それは来客者にも伝わるし、誰しもが触ってしまう、時には匂いを嗅いでしまう、木にはそういう良さがあるなと感じます。

 

轟木 年月を重ねているものって凄く惹かれますよね。神秘的。実際に立っている木を見てみたいです。そんな素敵なものを使わせてもらってるんだ…っていうことを、この目で見たい。

 

最初は不安もありましたけどね。普通、このような巨大な天然然材を使うことはまずありませんから。でも木を見に行った時、現地で職人の方にそう言った技術的なことを教えてもらえたのは本当に良かったです。木の質感を残しながらウレタンを塗っていくためにはどうすればいいのか? とか。

 

中村 職人さんで印象的だったのは、例えば「ここの端面をどれくらい削るか」とか「どのくらいの“うづくり”(板の加工方法の一種)で削るか」っていう本当に1ミリ、2ミリのオーダーに対して、現場で対応してくれるんですよ。めちゃくちゃ大きい電動ノコギリ持って、超重いはずなのにミリ単位の削り方をしていて、さすが職人だなぁと感動しました。こんなにいいものができた背景には、そういった仕上げの部分(フィニッシュ)の細かい要望に全て応えてもらえたことも非常に大きなポイントでした。

 

轟木 選ぶ過程は凄く楽しかったですね!

 

中村 木を選ぶなら絶対現場で見てほしいです。ワールドデコズさんにはたくさん在庫があって、その中には「化石の木」や「神社やお寺で使っていた木」、他にも様々なレアな木を見せてもらいました。実物を見る事で物語を感じ取れますし、最終形態の発想も膨らみやすい。

漫然としたイメージだけを持って現地に行っても、「これだ」というものが見つかるまでどんどん提案してくれますし、逆にある程度木を決めていっても全然違うものに心奪われたり…こういう「運命的な出会い」も面白いと感じました。

 

これは「現場へ行かないとわからなかった」ことですね。近々、また遊びに行きたいと思います。 新作のレアな木が入っているかもしれないし、匠の職人さんにも会いたいですし(笑

 

 

 

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いくら素晴らしい一枚板でも、倉庫に眠っているうちは「在庫」である。

デザイナーの皆様の手によって初めて生まれ変わり、使ってくれる方がいて初めて第二の生を歩み始める。

 

デザイナーのお二人とお話していると、自らの思い描く理想の実現へのひたむきさ、こだわりの強さを感じずにはいられない。いくつもの材を手に取り、図面に起こし、ミーティングを繰り返す中で様々な案を切り捨て、理想に合致する何かを探し続けたお二人に対し、そのお手伝いができたことは非常に嬉しいことであり、誇らしいことだ。

 

ワールドデコズの取り組みが、デザイナーの皆様のインスピレーションの源泉となり、その先のユーザーの皆様に対し新しい価値を提供するその日を、私たちは心から楽しみにしている。